NECが1986年に製造した8-inch FDD、PC-9881n。当時PC98シリーズの外部記 憶 装置として、主にビジネス用途に発売された高価な製品だった。8-inchはおろか 5.25-inchすら死滅しつつある現在、8-inch FDを実用として使っていた人は、か なり年配の方だろう。筆者はその昔、MD(ミニディスクでは無いので念のため) という、やはりNECのx86 CPUを使用した組込み型システム開発装置で、8-inch FDを使っていた。当時はMS-DOSが普及する前であり、コンカレントCP/M 86をOS として用いていたものだ。因みに使用していたMDには8-inch FDが4台搭載され ていた。 ここに掲載したPC-9881nは、PC-98シリーズの外部記憶装置として良く用いら れていたものだ。容量は2D(両面倍密度)で1.2MB。NECは初期の頃から8-inchド ライブをパソコン周辺機器として用意していた。NECではこの8-inchのFD規格と 互換性を保つため、5.25-inchや3.5-inchにも適用したため、IBM系列の製品と非 互換になってしまったのは有名な話しである。本体は小型のベアボーンキットほ どの大きさがある。定格電力は60Wと、たかだか周辺機器とは思えないくらいに 大きい。I/Fはアンフェノールフルピッチの50Pinコネクタで、増設可能となるよ う2個搭載されている。 ケース内部には、NEC製の「FD-1165A」ユニットが2台搭載される。このユニ ットそのものもかなり電力を食うシロモノで、24V(18W)、5V(5W)といった記 述も見られる。本体内部の1/3程度は、極めて大きな電源ユニットと冷却ファン によって占有されている。本体の電源を入れると冷却ファンが回転し、FDDにア クセスしていない時でもかなりの駆動音がする。今流行りの静音PCとは大違い。 8-inchの駆動音は独特で、「グィイイン、グィイイン」というヘッドシーク音 を聞くと郷愁すら覚える。このドライブは、今でもPC-9801DAに接続して使用し ているが、時々「新松」や「一太郎 Ver4.3」などといった当時もののアプリを 起動させるのも趣深い。 8-inchのFDメディアは1972年にIBMによって開発された。ディスク直径は 8-inch(約200mm)もある。記録フォーマットは最初に登場した製品が、1S(片 面単密度)で230KB。その後、1D(片面倍密度)の512KB版が開発され、1977年に は2DD(両面倍密度倍トラック)の1.2MBフォーマットとなる。この2DDが、その 後のNECのFDフォーマットの基準となった。 5.25-inch FDは1S(片面単密度)から始まり、2D(両面倍密度)360KB、2DD( 両面倍密度倍トラック)640KB、2HD(両面高密度倍トラック)と進化して行く。 2HDの時になり、NECでは8-inchとの互換性を重視して、1.2MBフォーマットを採 用したが、IBMでは2DDと同一の回転数を用い、使用トラック数を増加させること により、1.44MBまで拡張したフォーマットを用いた。IBMの5.25-inch ディスク ドライブでは、フリーソフトのJapan2HDを用いることにより、NEC PC-98上でフ ォーマットされた2HD ディスクが読めるというのは有名である。 最後に掲載した写真は、8-inch、5.25-inch、3.5-inchそれに2-inchの各FDメ ディアを並べたもの。2-inch FDは一般的にはならなかったが、その他のメディ アでは、それぞれ2D、2DD、2HDといった数種類の記録密度を持つものが製品化さ れた。