NECが1986年に発売した音響カプラ、PC-8268である。本カプラが製造・販売 されたのは1986年頃のことだが、型式認定を受けたのは昭和58年(1983年)9月 となっている。音響カプラ自体は、モジュラージャックも無いような環境でモバ イル通信する際に、最終手段として現在でも用いられている。あまり使った人は いないかもしれないが、現在販売されているカプラは最大で28.8Kbps程度のスピ ードが出る優れものだ。 ここに掲載したカプラは、それこそパソコン通信初期の頃に使用されていたも の。スピードもおそらく300bps、良くても1200bps程度の製品と思われる。この ほど、押入れの奥底から発掘されてきたシロモノだ。発売当時の価格は48,900円 だったそうだ。 カプラ本体上面にはゴム製の口が設けられており、ここに電話機の受話器をし っかりと押し込んで固定する。現在は一般メーカーから色々なデザインの電話機 が発売されており、受話器の形も千差万別であるが、当時は電話機は電電公社製 造が基本となっており、その形も一意的だった。そのため、一般的な受話器以外 の接続を考える必要が無かったのである。実際、1980年製造の601型プッシュホ ン電話機を装着してみると、余りにもピッタリとフィットする。 カプラ本体には4.8V、500mAhのNi-Cdバッテリーが搭載される。基本的に電源 はACアダプタから供給する設計となっているが、モバイル環境にも対応した設計 なのかもしれない。もしくは、通信中のAC電源の瞬断対応の可能性もある。本体 の端にはRS-232CコネクタとACアダプタのコネクタが搭載されており、もう一方 の端にはTEST-DATA切り替えスイッチとCALL-ANS切り替えスイッチが備わる。内 部回路は比較的簡単で、数個のCMOS ICとレベルコンバート用のHICから構成され ている。 さて、「僕らのパソコン10年史」には、1986年のPC-VAN開設当時のシステム構 成写真が掲載されていた。この写真には、PC-8268パーソナル・カプラの他に、 601型プッシュホン電話機、PC-8801 MK-II等が写っている。1985年にアスキーネ ットが無料試験運用を開始したのを皮切りに、1986年にはNECのPC-VANが無料テ スト運用を始め、1987年にはNifty-Serveが参入。各社パソコンネットは本格稼 動に移行して行く。このカプラは、NECがパソコン通信サービスPC-VANのために 用意した周辺機器だった。 余談だが、筆者は1990年にBIG-ModelというソフトとPC-9801URを使って、自作 の草の根ネットを開設したことがある。使用したモデムはアイワの2400bpsで、 電話回線は1回線のみ。自分がパソコン通信をする時は閉局という、極めてワガ ママなシステムにもかかわらず、ホスト局があまり無かった当時にあって、そこ そこのアクセスがあった。遠く韓国ソウル在住の友人もはるばるアクセスしてき てくれた覚えもある。因みにネット名称は「Net B-Class」といった。