日本でのパソコンブームのきっかけを作った製品は、NECが1976年に発売した マイコン・トレーニング・キット、TK-80だ。当初2,000台の販売目標を立ててい たにもかかわらず、6万台以上の大ヒットを飛ばした製品である。7セグメント 16進8桁LED、16進キーボード、μPD8080AD(2MHz)のCPUしか持たないワンボード マイコンのTK-80は、マシン語を直接入力してプログラミングを行なうという、 今となっては考えられないような方法で使用したのであるが、当時はこれが一般 的であった。ここに掲載したTK-85は、TK-80のバージョンアップ製品であり、 CPUに8085(2.4576MHz)を使用したものだ。発売はTK-80の4年後である1980年。 筆者は今思えば残念なことに、マイコン入門としてTK-80もTK-85も使わなかっ た。当時は空前のオーディオブームであり、マイコンよりはHi-Fiオーディオセ ットに狂っていたためである。仮にマイコン少年だったとしても、発売当時価格 88,500円というTK-80を購入することはできなかったであろう。その後、筆者も パソコン趣味に走ることになるが、PC-8001初代機が全盛の頃であった。人と同 じ物を持つことが嫌いであった筆者は、トランジスタ技術を見ながらZ-80のマイ コンを1から自作したものである。当然、いきなりCRTモニタ出力ができるよう なマシンを組み上げることは出来なかったので、最初はTK-80のように16進キー ボードとLED表示装置を持つマイコンを作成し、少しずつパワーアップして行く という方法を採った。 ここに掲載したセットは、その後ジャンク屋にてコレクションのために購入し た、未使用デッドストックのもの。初代TK-80もコレクションに加えたかったの であるが、いかんせん今となってはほとんど残っていない。以下に、TK-80と85 のスペックを示す。
項目 | TK-80 | TK-85 |
発売年 | 1976年 | 1980年 |
CPU | μPD8080AD (2MHz) | μPD8085A (2.4576MHz) |
ROM | 768B (Max. 1KBまで拡張可能) | 2KB (Max. 8KBまで拡張可能) |
RAM | 512B (Max. 1KBまで拡張可能) | 1KB |
表示装置 | 7セグメント8桁LED表示(16進) | 7セグメント8桁LED表示(16進) |
キーボード | 25キー (データ16:ファンクション9) |
25キー (データ16:ファンクション9) |
記憶装置 | カセット・インターフェス(1200bps) | カセット・インターフェス(1200bps) |
電源 | +5V ±5% 単一電源 | +5V ±5% 単一電源 |
電流 | − | 1.2A 以下 |
寸法 | − | 310 × 220 mm |
ここに掲載したTK-85は、シリアル番号190513の製品である。ボード上い搭載 されている主なデバイスは、下記の通り。 ・μPD8085AC :CPU ・μPD8255AC-5 :プログラマブルI/O ・μPB8212C :8-bitパラレルデータラッチ ・μPD2316EC :モニタROM(μPD2716Dピンコンパチ:2KB) ・μPD2114LC-1 :RAM(2個使用:1KB) ・Xtal(4.9152MHz) :原発振 トレーニングキットということで、マニュアルには本体回路図を含め詳細なハ ードウエア情報が掲載されており、これを元にユーザが色々と改造することがで きるように構成されている。プログラミングは16進キーボードから機械語を直接 入力して行なう。動作は通常オペレーションの他に、キーボード左側のスイッチ を操作することでステップ動作も可能。TKシリーズには、BASICを搭載したTK-85 BSという製品も存在した。この後、PC-8001が発売され、大ヒット商品となる。
NEC TK-85 ボード構成図 (クリックで拡大) |
NEC TK-85 保証書 (クリックで拡大) |